「河童のクゥと夏休み」見ましたー

 今日ツタヤにて原恵一監督の河童のクゥと夏休みと、北久保弘之監督の「老人Z」を借りてきました。
 「クゥ」は当日返却で借りてきたのでまずこれを鑑賞…実に良い作品でした。

河童のクゥと夏休み 【通常版】 [DVD]

河童のクゥと夏休み 【通常版】 [DVD]

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 この作品といえば、監督がクレヨンしんちゃん モーレツ!オトナ帝国の逆襲」クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」といったクレヨンしんちゃんの劇場版で監督を務めた原恵一氏であるということでしょう。

 上のニ作については、「子供にせがまれて付き添いで仕方なくしんちゃん映画を見に来たのに、見ているうちに大人の自分が泣いてしまった」なんて体験をさせたともっぱら有名ですねw



 原監督はこの「クゥ」をアニメ化させる以前には「しんちゃん」の劇場版の監督が大きな仕事でしたが、「しんちゃん」のギャグやアクションで子供たちを楽しませつつ、子供では完全には理解できかねる大人向けのSF要素や感動要素を、「しんちゃんギャグ」を崩さない絶妙なストーリー展開で盛り込む技術を持っていると評価されています。


 そんな原監督が、自身で一番アニメ化してみたかったのが「クゥ」*1だったらしく、この映画こそ原監督が自分の撮りたい映像を撮れた作品だそうです。

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○河童と暮らすかわらない日常。それを壊す人間の興味

 まず見ていて心地良いのが、河童という存在に対して主人公やその家族みなが友人のように接して日常を過ごしていく様子です。


 普通こういう「不思議な友達の日常介入モノ」*2って、人間社会の日常に介入してきた存在(ここでは河童のクゥ)が自分の特殊能力を使って騒動を巻き起こすものだと思うんです。

 しかし「クゥ」の中で描かれ望まれるのは「クゥとなんでもない日常を過ごす」ことなのです。
主人公とその家族はクゥの存在を社会の奇異の目から隠し、楽しくクゥと暮らします。家の中で水浴びや相撲をしたり、共に楽しく食事をしたり、人目に触れないように川で一緒に泳いだり…

 それらの描写は本当に自然で、見ている自分も一緒に遊んでいる「クゥ」という存在を「河童という奇異な存在」といった認識ではなく「ただ河童というだけで、あとは人間同士とかわらないかけがえのない親友」として主人公と家族は接しているのが伝わってくるのです。

 この映画のタイトルが「河童のクゥ」ではなく、河童のクゥと夏休みである理由はここにあるのでしょう。
 この作品は「クゥ」を楽しむのではなく、「クゥと過ごす夏休み」を楽しむ映画なのだと。


 さて、「クゥ」が現代で初めて出会ったのは優しい人間でした。
 しかしクゥを「物珍しい河童」としか見ずに無神経な奇異の目を向け、なんでもないけど楽しかった日常を壊していくのもまた人間なのです。

 この映画では主に「マスコミ」という存在を通して、人間の「興味」という、時に無神経で悪質極まりない感情の醜さが描かれます。

急にもてはやしたと思ったら、危険かもしれないと思い始めると気味悪がる。人間の興味とはこれほど自分勝手なものなんだよな、と痛感させられます。

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○映画の常識をハズすことが出来る、原監督の技術。
 
 
 この映画の一番スゴいところ。
 それは無難で、しかしありがちな映画の常識的パターンから外れていること。
 そして独自のストーリーを展開させ、それで上手く話を収束させてしまう原監督独自のハイレベルなストーリー構成です。


 得てして映画のクライマックスというのは

1作品クライマックスにふさわしい、とても大きな事件が起きる
2紆余曲折を経てその事件をなんとか解決する。
3事件解決の喜びを分かち合い、その後別れを惜しみつつ主人公たちはそれぞれの日常へ戻る。

 というのが、常識でしょう。
 この常識では1で起こった事件を解決するため、2のシーンの時間配分がとても大きくとられます。
 そして解決を果たし感動しているなかで3のシーンは短い時間でサラリと終わらせる。
これこそ一般的な映画の展開と言えます。
 

 しかし原監督はこの作品で、この常識から外れた構成でストーリーを展開させるのです。

 
 この映画でも「クライマックスにふさわしい大きな事件」が起きます。
それはクゥの失意をうけて亡き父が呼びよせる竜神さまの光臨です。

 自分はここまでの展開から
「怒った竜神さまが人間たちを苦しめはじめるが、主人公との会話で立ち直ったクゥが竜神さまの怒りをしずめて、クゥは主人公との再会を誓って人里はなれたところへ行って終わる」
 という展開になっていくのだろうと思っていました。


 ところがどっこい、この予想は見事に外れました。 
 迫力たっぷりに登場した竜神さまは、大きな事件はおこさずクゥの失意を取り除くほんの手助けだけをして、そのまま去って行きます。
 
 上の常識の2にあたる部分がなんとも短い時間で、サラリと終わってしまうのです!
 そしてそれ以降、竜神さまの光臨を越えるようなスペクタクルな展開は一切ありません。

 しかし原監督は、この「クライマックスにふさわしいほどの事件」を中盤にもってきて、その事件を主人公やその家族、そしてヒロインの成長や邂逅に昇華させてしまうのです。


 あえてアンパイである映画の常識的展開を外れて、それでも見ているものが納得できる物語の収束を描くことのできる原監督のセンスは本当に目からウロコでした。
 少なくとも自分はこんな独特の展開で、しかも面白かった作品はまだ見た事はありません。

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 自分は「オトナ帝国」が大好きで、その原監督なら絶対になにかスゴいアプローチで楽しませてくれるぞ!と思っていましたが、まさかこういう形だったとは思いもよりませんでした。
 原恵一監督のセンスはホントスゴいです。

 Wikiを見ると原監督はこの作品を完成させて、「燃え尽きたぜ…真っ白にな…」な状態になっていたそうなのですが、また新たな活動は進行しているとのこと。
次回の原恵一作品もとても楽しみですね〜。


 余談ですが気付いたことがひとつ。

 「クゥ」に登場する主なキャラクターの声をあてているのは、ほとんどは役者畑か芸能人です。

 自分はこの「役者・芸人の声優起用」を嫌っているもので、「クゥ」に唯一不安を感じていた部分でした。
 しかし、この映画で描かれるのは「日常」なので、そんな声優たちのアニメとは違う声も、あまり気になりませんでした。
 
 かといってアニメ声優を使えばこの作品は悪くなる、のかどうかはわかりませんが少なくとも声による違和感はあまり感じませんでした。これも原監督一同のスタッフによる力なのでしょうか。


 でも、少し前にTVで放送されていた「ブレイブストーリー」のウェンツ瑛士の声の演技に憤りすら感じて*3しまったこともあるのです。

 やはり少なくとも、スペクタクルやアクション、ファンタジーな要素が中心に来るジャンルのアニメ映画で本業以外の声優を起用するのはダメだと思いますね!




 老人Zは明日鑑賞…これも楽しみだ〜

*1:原作は木暮正夫という作家の児童小説

*2:オバQケロロがそうでしょうか

*3:主役の松たか子の少年声は非常にイイのですが!