世界を目指すことで「anime」はどうなる? (NHK「日本アニメvsハリウッド」)
昨日の記事に書いた「NHKスペシャル|日本とアメリカ 第2回 日本アニメ vs ハリウッド」をさっき見たんですが、やはり興味深かい内容でした。
番組の流れは主に
・「ハリウッド版アトム」の製作に密着。映画で描かれるアトムのデザインについて、実際に映画を作る米アニメスタジオ「イマジアニメーション」とアトムの版権元である「手塚プロダクション」とのやりとり
・日アニメスタジオ「GONZO」がアメリカ向けに製作したアニメ「アフロサムライ」の製作に密着。「ジャパニメーション」を海外向けに作ることのアニメスタッフの苦労・試行錯誤。
という2つの取材が、併行して進んでいくカンジ。
どちらの取材も、『「アニメビジネス」を海外に拡大させたい日本と、日本の良質なコンテンツで利益を生みたいハリウッド』の様子が見えてくるようでした。
まず前者の
・「ハリウッド版アトム」の製作に密着。映画で描かれるアトムのデザインについて、実際に映画を作る米アニメスタジオ「イマジアニメーション」とアトムの版権元である「手塚プロダクション」とのやりとり
ハリウッドのスタジオ側は映画化にあたって、アトムのデザインを(彼らの感覚でいう)「お兄さん」のような年齢のイメージで決定してきます。
この改変はファミリー向け映画視聴者が好むマーケティングの調査結果によるものだそう。
日本の担当者は「おじさんにも見えてしまう」と言うそのアトムのデザインは手塚アトム比べ、
・目や瞳が小さくなり
・身長や手足も長く
・顔の輪郭も精悍の印象を受けるもの
でした。
(少なくとも愛らしい手塚アトムを知っている日本人全員が違和感を感じるデザインではないかと思いますw)
これに、映画内容の最終的な決定権を握っている手塚プロダクション側は「手塚アトムに近づけるように」とデザインの修正を指示し、後日修正を加えたデザイン稿をハリウッド側が手塚プロダクションに持ち込んで…という感じの映像が流れていました。
で、まとまった結果がたぶん今公開されているワンシーンの↓のアトムになるんではないかと。
個人的には大手を振って「いいね!」とも言いがたいですが、「ハリウッドのマーケティング」という一種の「権威」に圧倒されず、ここまで手直しをさせた手塚プロダクションはエラい!と思うんですが、どうでしょう?
特にそれが感じられるのが、例えばアトム*1の「愛らしさ」要素のひとつである「まつげ」がちゃんと描かれている所とか。*2
少なくとも「実写ドラゴンボール」について最近見聞きしたド改変っぷりと比較すると、手塚プロの「作品設定だけ渡して丸投げしない」という強い姿勢が感じられました。
手塚プロダクションという会社はつまり、悪い言い方をすれば「故手塚治虫の遺産を運用して食いつなぐ」会社であると言えますし、ましてや今回は手塚キャラの代名詞とも言えるアトムです。
「一番の商売道具」とも言えるこのキャラクターを他人に触らせる以上、特に慎重になるのも当然でしょう…たとえ相手がハリウッドという大物でも。
次に、
・日アニメスタジオ「GONZO」がアメリカ向けに製作したアニメ「アフロサムライ」の製作に密着。「ジャパニメーション」を海外向けに作ることのアニメスタッフの苦労・試行錯誤。
について思ったこと。
「GONZO」所属のプロデューサーが「アメリカの視聴者へ向けたアニメ」として「アフロサムライ」という作品のプロジェクトを進めます。
ハリウッド方式プロモーション戦略を用いたり、アニメーション製作に関してもアメリカ視聴者にあわせるため今までにない工夫を迫られたりと、ここから「アニメを世界へ売り出す」ということのひとつのモデルが見えてきます。
特に気になったのは、アニメ製作スタッフたちの苦労。
アメリカの視聴者はアニメキャラが喋るとき、日本のアニメの3コマの口パクに違和感を感じるそうで口パクの枚数を5枚に増やす必要があったり、ディズニーアニメのように先に収録したハリウッド俳優の発音にあわせた口パクの作画に追われたり、マーケティング調査の結果から大物ハリウッド女優が声優として起用されることが製作途中で決まり今まで描いていたそれまでの口パク作画を全て描きなおしたり…
と、いった苦労がアニメスタッフにのしかかってきます。
そしてなにより、「アニメ作家の表現vsハリウッドの映画論」の対決みたいなものが静かに行われてんじゃないか?と思いました。
ハリウッドは実績やデータから「売れる映画(脚本)」を理論的に作っていくようなのですが、それに対し、それでも自分の表現を込めたいアニメ作家(番組内では主に監督)の二者のやりとりは、いわば両者のプライドのぶつかりあいにも見えてくる緊張感がありました。
「ハリウッドはここはこうすれば売れるんだと言うが、クリエイターとしてここはこうしたいんだ」
独自の作品性で他にない魅力を発するジャパニメーションですが、それをもとに利益につながる作品を売り出すのがハリウッド流。
しかしハリウッド流にただ従っていて、果たして今までのように日本独自の「ジャパニメーション」を描き続けられるのか…?とも感じます。
ただ「『アニメ』を世界に売り出す」事について、ひとつのモデルを自ら先人を切り示したGONZOの動き。
これはまず勇気ある行動として評価されるべきだと思いますね。
今までは「自国(日本)向けに作られたアニメ」に魅力を感じ支持する海外の人々によって、日本アニメの海外市場が構築されていました。
しかし世界に向けた「アニメ」を発信するということになると、ただ「自国に受けるアニメ」では確実な利益は望めません。
世界に自ら打って出るということはすなわち、世界に受ける作品に仕上げるということ。
そのためには、世界に合わせた多少の「迎合・妥協」は必要になるでしょう…
ただそれが原因でジャパニメーションの独特の魅力そのものが失われるということも考えられるわけで…
今後の日米(日本と世界)のアニメビジネスの動向、ますます気になるものになりそうです。