「今のマンガ」を知る地図『現代マンガの冒険者たち』

 豚インフルとか流行ってますが、私はなぜか消化器系がイカレてこの間まで苦しんだのなんの!
 幸い豚フルとは関連のない症状で、ちゃんと1・2日で回復したので一安心です。
 
 そんな間に寝床でいくつか読み終えた本があったので、1つ紹介をば。


 



 
 タイトルは『現代マンガの挑戦者たち』
 
現代マンガの冒険者たち

現代マンガの冒険者たち

 だいたい劇画ブーム以後の70年代後半くらいからオノ・ナツメといった、最近までのマンガ体系をジャンルごとに切り分けて、代表的なマンガ家の技法や後年に与えた影響などを解説していく解説本です。
 

 著者は南信長こと新保信長という人。
 フリーライター・編集者で朝日新聞などでマンガ解説をやっていたりするほか、西原理恵子「できるかな」に描かれたりしていたなど、今調べてみると本に載っていた著者紹介と比べてみるとなんだか面白そうな人ですw
 
 
現代マンガの冒険者たち 大友克洋からオノ・ナツメまで|書籍出版|NTT出版

 この本で特徴的なのはマンガ史全体を一本道に辿るのではなく、アクション・ギャグ・少女マンガ・Jコミック・ストーリーマンガ…と、描かれていったジャンルごとに章分けをしていること。
 
 第1章にまず、あらゆるマンガのジャンルに関わらず影響を与えた「ビジュアルの変革者」(井上雄彦大友克洋江口寿史鳥山明高野文子を中心に)を紹介し、全体的なマンガ表現の多様性と種類を解説。
 これを下地として、それぞれマンガジャンルごとの80年代から現在までに至るまでの表現の変遷を解説が始まります。

 
 全体的に「ジャンルの歴史」をたどって行くので、先に出た著名なマンガ家が生み出したそのジャンルでの新しい表現・技法・語り口を、後年の同ジャンルの作家たちがどのように受けてそれぞれの作品が生まれたのか。
 また、それを裏付けるインタビューでの作家の発言なども多数引用されていて、それぞれの作家たちの当時の考え方や志向を確認しながら世に出た作品を理解することが出来ます。
 
 第1章での下地作りとジャンルを時系列的に読み進めていく形で、ジャンル別の1本道をシンプルに辿っていけてとても解りやすい構成になっています。
 
 こういった形なので、名前を知らなかった・触れることのなかった作家や作品についても、前後のつながりからスンナリとその特徴や影響を知ることが出来ました。 

 



●作家の『居場所』を確認できる、系譜図と分布図


 そしてこの本で面白い特徴がもう一つ。
 それは章…ジャンルごとに1ページ全体や見開きの大きさで示される、作家たちの系譜図や分布図

 それぞれその章で解説される内容を図式化してまとめたもので、それぞれの作家が用いる作風によって作家の名前を配置し、作家それぞれの作風の立ち位置を示します。


 系譜図の場合は、作風を縦軸に・年代を横軸とし、そこへ作家たちを配置します。
 
 例えば『ギャグ』なら、60年代〜00年代を横軸・アバンギャルド〜コンサバを縦軸。
 アバンギャルドの、60年代は赤塚不二夫/90年代は漫☆画太郎
 コンサバの、60年代は長谷川町子/90年代はけらえいこ…といった感じ。
 


 分布図なら、それぞれに相反する要素の縦軸・横軸に、作家たちを配置します。

 例えば『ストーリーテラー』なら、日常的〜空想的が横軸・ホット〜クールが縦軸。
 ホットで、空想的なら永井豪/日常的なら佐藤秀峰
 クールで、空想的なら清水玲子/日常的なら谷口ジロー…といった感じです。

 


 また図の中で、表現の似通う作家たちを括って「ジャンル内ジャンル」と言う感じのグループ分けや、作家間・グループ間の影響関係を線で結んだりと、それぞれ同ジャンルを描く作家間の関係性も解りやすく示されています。


 章を読み進めていく度にこの図を見直して、語られている作家の周辺を確認することで、より本文が辿っていく作家について深く・解りやすく理解することが出来ました。




●いまのマンガの源泉を知る


 この本は、作品そのものの表現や技法を深く考察するものでなく、作品…ひいてはそれを描くに至った作家について幅広く知ることが出来るもの。

 あの作家が、いかにしてあの作品を描いたのか。そのルーツはなんなのか。
 そういった現代のマンガ作品の「源泉」を、整理された構成と分かりやすい図で知ることが出来ます。


 現在・過去問わず、自分が知らなかった作家の名前もたくさん出てきましたが、ジャンルごとに分けられた解説によって作風がすぐに理解できるので、新しい作家探しの原動力にもなりそうです。